五島らしいお正月ってなにかあるかな、はたと思いを巡らせました。私たちにとってはどれもあたりまえで、特別とは思ってこなかったことばかり。ただ、私の実家である犬塚家と、慎太郎さんが生まれ育った南家では、元旦にすることや食べるものがちょっとちがうんですね。
私の父・虎夫は長男でしたので、ご先祖様のお仏壇は我が家でお守りしてきました。元旦の朝は、仏様やご先祖様に手を合わせたあと、漆の酒器でお屠蘇(とそ)をいただいて、父と「明けましておめでとうございます」「今年もよろしくお願いします」と挨拶したものです。「三々九度」に使われるような大中小の杯が重ねてあって、7人きょうだいそれぞれに好きな杯でいただきました。私はあの独特の香りが苦手で小さい杯を選びましたけど、大きい杯で飲む兄や弟もいました。
次に、細く切ったイカと昆布をひとつまみ、手にのせていただきます。これがおいしくて! 子どもの頃から好きだったんですよ。それから、母がつくってくれるお雑煮。あご(飛魚)で丁寧に出汁をとった澄ましのお雑煮で、具は丸餅、白菜、にんじん、椎茸。切り身の鰤(ブリ)が入るときもあります。
一方、慎太郎さんの実家では「バレン」が定番おせち料理の一つ。これ、なんだと思いますか? バショウカジキ(マグロ)の胃袋に塩をして、ゆがいて切ったものです。芭蕉の葉のように大きく広がる背びれがあることからこの名で呼ばれ、有川湾で9〜10月によく獲れる魚です。大人の味というかお酒のつまみですが、昔からうちの娘たちの大好物なので、お義母さんは漁師さんから分けてもらったカジキの内臓を冷凍保存しておいて、お正月に振舞ってくれるんです。「おいしいやろ、おいしいやろ」って。
同じ島の隣地区なのに両家それぞれの味や風景があるっていいものだなあと、お正月を迎えるごとに感じるようになりました。(こ)
2024年正月
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